供給チェーン攻撃を防ぐ3つの防御戦略

2026-05-16 hit count image

npm供給チェーン攻撃に対応するための3つの防御戦略を整理します。 GitHub ActionsのSHAピン固定、Dependabot cooldown、Yarn 4のnpmMinimalAgeGateを コードとともに段階的に解説します。

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はじめに

第1回ではaxios供給チェーン攻撃の事例を通じて、npmの信頼モデルが抱える構造的な限界を確認しました。今回は、供給チェーン攻撃が実際のプロジェクトで起きないように — 正確には、起きたとしても影響を受けないように — 実際のプロジェクトに適用した3つの防御戦略をコードとともに解説します。

ここで紹介する3つの戦略は、それぞれ異なる攻撃対象領域を防ぎます。

戦略防ぐ攻撃対象領域
GitHub Actions SHAピン固定CIで使用するActions自体の改ざん
Dependabot cooldown自動依存関係PRを通じた新しい悪意あるバージョンの流入
Yarn npmMinimalAgeGateローカル・CIのインストール時点での新しい悪意あるバージョンの流入

防御の原則: 時間を味方につける

3つの戦略に共通する原則はシンプルです。

新しく公開されたものをすぐに受け入れない。

第1回で見たように、供給チェーン攻撃は公開から数時間以内に検出・削除されるパターンが圧倒的です。つまり、数日待てばほとんどの悪意あるバージョンは自然とふるい落とされます。このシンプルな事実をコードと設定で強制するのが、今回適用した防御戦略の本質です。

この原則の有効性は第3回で実際のインシデントデータとともに検証します。

戦略1. GitHub ActionsのSHAピン固定

何を防ぐか

GitHub Actionsのワークフローは通常、次のように書かれています。

- uses: actions/checkout@v6
- uses: actions/setup-node@v6

@v6のようなタグ参照は可読性が高いですが、**タグは変更可能(mutable)**という問題があります。メンテナーがv6タグが指すコミットを別のコミットに移動させることができます。メンテナーアカウントが乗っ取られれば、攻撃者も同様にタグが指すコミットを変更できます。

実際に2025年には、ダウンロード数の多いtj-actions/changed-filesのタグが悪意あるコミットに書き換えられ、多数のワークフローがシークレットを漏洩したインシデントがありました(CVE-2025-30066)。

もう少し具体的に説明すると、ワークフローファイルに記述した

- uses: tj-actions/changed-files@v45

というたった1行のタグ参照が、攻撃者が私たちのCI環境で任意のコマンドを実行できる**RCE(Remote Code Execution、リモートコード実行)**の入り口になったのです。私たちのコードは変わっていないにもかかわらず、その1行が指すコミットが攻撃者の悪意あるコミットに置き換わった瞬間から、次のCI実行でその悪意あるコードがワークフローの権限で実行されます。ワークフローは通常、デプロイトークン、クラウド認証情報、npmトークン、GitHub PATなどの環境変数にアクセスできるため、この1行の改ざんだけでそれらすべてのシークレットが攻撃者の手に渡る可能性があります。

解決策: SHAで固定する

解決策はシンプルです。タグの代わりに**不変(immutable)**なコミットSHAで参照すればよいのです。

- - uses: actions/checkout@v6
+ - uses: actions/checkout@<コミットSHA>   # v6

SHAはコミット内容のハッシュなので、一度決めたSHAが指すコードは絶対に変わりません。メンテナーがタグを移動させても、私たちのワークフローは私たちが検証したその時点のコミットを使い続けます。

可読性が下がるデメリットは、SHAの後にバージョンコメントを残すことで補えます。

適用規模

実際のプロジェクトで使用するすべてのCIワークフロー50本あまりをSHA参照に変換しました。

対象はactions/checkoutactions/setup-nodeactions/cacheのようなGitHub公式Actionsから、aws-actions/configure-aws-credentialstj-actions/changed-filesのようなサードパーティActionsまですべて含みます。

SHAの調べ方

初回適用時に最も手間がかかるのが「このタグが指すSHAは何か」を調べる作業です。次のコマンドで簡単に確認できます。

# v6タグが指すSHAを調べる
git ls-remote --tags https://github.com/actions/checkout.git v6

逆にあるSHAに対応するタグを確認するには次のようにします。

git ls-remote --tags https://github.com/tj-actions/changed-files.git \
  | grep <コミットSHA>

Dependabotとの互換性

「SHAで固定すると更新はどうするの?」という疑問が湧くかもしれません。結論から言えば、DependabotはSHAでピン固定されたActionsの更新も正常に検知してPRを作成します。新バージョンが出るとSHAを自動で更新したPRが開き、人がその変更をレビューした上でマージできます。

つまり、可読性の低下とSHA調査の手間を除けば、運用上の負担は増えません。一度設定しておけば自動化のメリットはそのまま享受できます。

戦略2. Dependabot cooldownの設定

何を防ぐか

Dependabotは依存関係に新バージョンが出ると自動で更新PRを作成します。セキュリティパッチを素早く受け取るための優れたツールですが、同時に悪意あるバージョンを最も素早く取り込む通路にもなります。

第1回で見たように、供給チェーン攻撃の露出ウィンドウは通常数時間です。Dependabotが新バージョン公開直後にPRを作成し、誰かがそのPRをマージすれば — あるいは単にCIがPRの依存関係を自動インストールするだけでも — 悪意あるコードが環境に入り込みます。

解決策: 7日間の冷却期間

GitHub Dependabotは2025年頃からcooldownオプションを提供しています。このオプションを有効にすると、新バージョンが公開されてから一定時間が経過しないとDependabotがそのバージョンへのPRを作成しません。

# .github/dependabot.yml
version: 2
updates:
  - package-ecosystem: 'npm'
    directory: '/'
    schedule:
      interval: 'weekly'
    cooldown:
      default-days: 7
      semver-major-days: 7
      semver-minor-days: 7
      semver-patch-days: 7

各オプションの意味は次のとおりです。

オプション説明
default-daysすべての更新に適用されるデフォルトの待機日数
semver-major-daysメジャーバージョン更新の待機日数
semver-minor-daysマイナーバージョン更新の待機日数
semver-patch-daysパッチバージョン更新の待機日数

7日という数字は任意に決めたものではありません。供給チェーン攻撃の事例分析によれば、既知のインシデントのほとんどが7日以内に検出・削除されています。詳しい根拠は第3回で解説します。

セキュリティアラートは即時

ここで1つ注意点があります。セキュリティアラートはcooldownの対象外です。CVEが公開された脆弱性に対するセキュリティ更新PRは、cooldown設定に関係なく即座に作成されます。つまり「新バージョンは7日待つが、既知の脆弱性はすぐパッチ」という合理的な動作が実現できます。

戦略3. Yarn 4のnpmMinimalAgeGate

何を防ぐか

Dependabot cooldownは「PRが作成されるタイミング」を遅らせます。しかしPRを経由せずに直接依存関係を追加する場合 — たとえば開発者が新しいライブラリを導入する際にyarn add some-packageを実行する場合 — cooldownは機能しません。

この隙間を埋めるのが、パッケージマネージャー自体で新バージョンのインストールを防ぐ機能です。

解決策: yarn installの時点でブロック

Yarn 4.10からnpmMinimalAgeGateオプションが導入されました。このオプションを設定すると、npmレジストリに公開されてから指定した期間が経過していないパッケージバージョンはインストール自体がブロックされます。

# .yarnrc.yml
npmMinimalAgeGate: 7d

このたった1行でyarn installyarn addのいずれにも一貫して7日ゲートが適用されます。ローカルの開発者PCでもCIサーバーでも同じように機能します。

設定が正しく適用されているかは次のコマンドで確認できます。

yarn config get npmMinimalAgeGate
# 10080 (= 7日 × 24時間 × 60分)

Yarn 4アップグレードを一緒に行った理由

このオプションを使うために、既存のYarn 3.7.0をYarn 4.14.1にアップグレードしました。アップグレード自体が副次的にいくつかのセキュリティ改善をもたらします。

改善事項説明
enableScriptsのデフォルトfalseサードパーティパッケージのpostinstallスクリプトがデフォルトで無効化
Hardened Modelockfileとパッケージメタデータの完全性検証
npmMinimalAgeGate新規公開パッケージのインストール制限(今回の変更の主目的)
npmメタデータキャッシングインストール速度が約4倍向上(セキュリティとは別のメリット)

特にenableScripts: falseは、第1回で見たaxios攻撃の核心的な実行トリガーだったpostinstallをデフォルトで防ぐという点で重要です。axios攻撃はplain-crypto-jspostinstallが実行されることで成立しますが、Yarn 4環境ではその段階自体がなくなります。

マイグレーション時の注意点

Yarn 4アップグレードには若干の追加作業が必要です。

  • package.jsonpackageManagerフィールドを更新([email protected][email protected]
  • yarn.lockをv9形式で再生成(大規模な差分が発生)
  • CIワークフローの--frozen-lockfileフラグを--immutableに置き換え(Yarn 4では--frozen-lockfileは廃止)

lockfileの変更が大きいため、マージ後に他の作業ブランチのrebaseが必要になることを事前に共有しておくとよいでしょう。

3つの戦略の役割分担

3つの戦略はそれぞれ異なる侵入口を防ぐため、組み合わせて適用することで初めて意味を持ちます。

侵入口1. SHAピン固定2. Dependabot cooldown3. npmMinimalAgeGate
ワークフローのActions改ざんO
Dependabotが作成した新依存関係PROO
yarn addによる新ライブラリの導入O
CIでyarn install実行時の新バージョン流入O

特にaxiosのような事例に当てはめると、2番と3番のどちらか一方があるだけでも、7日以内に検出・削除される悪意あるバージョンがインストールされる事態は防げます。両方を適用したのは「PRの段階」と「インストールの段階」という異なるタイミングで二重にゲートをかける効果を狙ったものです。

まとめ

今回解説した3つの戦略はすべて、新しく公開されたものをすぐに受け入れないという同じ原則を、異なるツール・異なるタイミングで適用したものです。

特別に精巧だったり複雑な手法があるわけではありません。設定ファイル数行とワークフローの整理で完結します。それでもこの変更が意味を持つ理由 — 単純な変更が実際にどれだけ多くの攻撃を防げるか — はデータにあります。

次の記事供給チェーン防御戦略の有効性では、「7日という数字は本当に十分なのか?」「最近知られている供給チェーンインシデントのうち、この防御で防げたものはいくつか?」「そしてこの戦略が防げない攻撃は何か?」を整理します。

参考資料

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